大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和32年(う)968号 判決

被告人 渡辺次男

〔抄 録〕

弁護人の論旨一について。

所論は本件放火によつて家屋羽目板が焦げただけであるから、現に人の住居に使用する建造物に対する放火既遂ではなく、未遂をもつて処断すべきものと主張する。しかし羽目板は畳や建具の類と違い建造物たる家屋の一部を為すものであるから、人の住居に使用する建造物に放火し、その羽目板が独立して燃焼する域に達したならば、刑法第百八条の既遂罪が成立することは多言を要しないところである。いまこれを本件についてみるに、被告人の原判示第一の一の放火にあつては、三森兼作方裏の木小屋と便所は略完全に焼けてしまい便所に近接する三森兼作方本屋もその西側部分に於て檣壁の板が焼け落ち、屋根の棟木は焦黒化して露出し、杉皮屋根の一部も焼けて空洞となり、外部を仰ぎ見ることができる程になつているし、(以上昭和三十一年九月二十五日附司法警察員の実況見分調書参照)原判示第一の二の放火により渡辺佳英方住居北側部分に於て、二重になつた羽目板の外部が一、六尺乃至二、八尺の巾で高さ一丈の屋根ひさしまで燃えた外内張り板が一部家屋の内側に焼け抜ける程になつていることが認められ、(以上昭和三十一年九月三十日附司法警察員の実況見分調書参照)右状況からすれば、三森兼作方住居及び渡辺佳英方住居の一部がそれぞれ焼燬されたものと認めなければならない。原判決がこの被告人の所為に対しいずれも刑法第百八条を適用したのは正当であつて、未遂に止まる旨の論旨はその理由がない。

(加納 吉田作 山岸)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!